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東京地方裁判所 昭和58年(ワ)12952号 判決 1985年3月07日

原告 東都信用組合

右代表者代表理事 泰道三八

右訴訟代理人弁護士 古城磐

被告 三河正美

被告 加藤義明

右両名訴訟代理人弁護士 長谷川朝光

主文

一、被告両名の間において、別紙物件目録一、二記載の物件について昭和五八年八月一日、賃貸人を被告三河正美、賃借人を被告加藤義明とし、別紙物件目録一記載の物件につき賃料一か月金一五万円、別紙物件目録二記載の物件につき賃料一か金一万円、それぞれ期間三年、期間中賃料全部前払い、賃借権譲渡ないし転貸をすることができるとの特約をもって締結された賃貸借契約はこれを解除する。

二、被告加藤義明は、原告に対し、別紙物件目録一記載の物件についてなした別紙登記目録一記載の、別紙物件目録二記載の物件についてなした別紙登記目録二記載の各賃借権設定仮登記の各抹消登記手続をせよ。

三、訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

主文同旨

二、請求の趣旨に対する答弁

1. 原告の請求をいずれも棄却する。

2. 訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、請求原因

1. 訴外佐藤明男は、昭和五六年六月二五日訴外株式会社日本コテージ(以下「債務者」という。)が原告に対し負担する現在の債務及び将来負担すべき債務を担保するため、自己所有の別紙物件目録一、二記載の物件(以下「本件物件」という。)につき、債権極度額三五〇〇万円、順位一番の根抵当権を設定し、同日その旨の登記を経由した。

2. 右佐藤明男は、昭和五八年四月一五日本件物件を被告三河に売買により所有権を譲渡した。

3. その後原告は債務者に対し、債務者の訴外商工中央金庫及び同全国信用協同組合連合会に対する債務を代位弁済したことによる総額四六七三万三四三五円の求償債権を取得するに至ったので、右債権極度額三五〇〇万円の限度において本件物件につき抵当権実行による競売の申立(東京地方裁判所昭和五九年(ケ)第一三五号)をなし、現在競売手続が進行中である。

4. 被告三河は、右根抵当権設定登記後である昭和五八年八月一日被告加藤との間において、別紙物件目録一記載の物件につき賃料一か月金一五万円、別紙物件目録二記載の物件につき賃料一か月金一万円、それぞれ期間三年、期間中賃料全部前払い、賃借権譲渡ないし転貸をすることができる約定で賃借権を設定してその引渡を了し、同月三日右賃借権設定の仮登記を経由した。

5. 右賃貸借は民法三九五条所定の期間内のものであるが、右根抵当物件の価額は、原告の根抵当債権額を補償し得るに足らないうえ、賃料前払いの根抵当権者にとって著しく不利な賃借権の附帯することにより、原告に損害を及ぼすことは明らかである。

よって、原告は、被告らに対し民法三九五条但書の規定により前記賃貸借の解除を、被告加藤に対し前記賃借権設定仮登記の各抹消登記手続を求める。

二、請求原因に対する認否

請求原因1の事実のうち、原告主張の登記がなされていることは認め、その余の事実は知らない。

同2、4の事実は認める。

同3の事実は知らない。

同5の事実は争う。

三、被告の主張

原告は、前記債権の担保として、本件物件のほかに訴外佐藤武明所有の別紙物件目録記載三、四の不動産について極度額二五〇〇万円の根抵当権の設定を受けているので、本件物件と合わせればその被担保債権極度額は本件債権額を上回るから、本件賃貸借の存在が原告に損害を及ぼすことはない。

四、被告の主張に対する原告の認否

原告が別紙物件目録記載三、四の不動産について極度額二五〇〇万円の根抵当権の設定を受けていることは認める。

第三、証拠<省略>

理由

一、請求原因1の事実のうち、原告主張どおりの登記がなされていることは当事者間に争いがなく、この事実と<証拠>によれば原告主張の根抵当権設定契約のなされたことが明らかであって、この認定を覆すに足りる証拠はない。

請求原因2及び4の事実は当事者間に争いがない。

請求原因3の事実は弁論の全趣旨によって認めることができ、これを覆すに足りる証拠はない。

二、そこで、本件賃貸借が根抵当権者である原告に損害を及ぼすか否かについて判断する。

<証拠>によれば、原告は本件根抵当権設定契約を締結するについて、昭和五六年六月一六日、本件物件を同じく共同担保とされている私道部分を含めて時価を金五三四一万九〇〇〇円、担保価額を金三二〇五万一〇〇〇円と評価したこと、前記競売事件における別紙物件目録一記載の物件の評価額が金二二七一万円、別紙物件目録二記載の物件の評価額が金九〇〇万円、合計三一七一万円でありいずれも債権極度額に達するものではないことが認められ、この認定に反する証拠はない。

一方根抵当債権元本が金四六七三万三四三五円であることは前記のとおりであり、根抵当物件の価額が被担保債権額を下回っていることが明らかである。

加えて本件賃貸借につき、期間中の賃料全部前払いの約定がなされ、その旨の登記も経由していること(この点は当事者間に争いがない。)は前記競売事件における競売価額を著しく減少させるものと言わざるを得ない。

そうすると、本件賃貸借の存在は、根抵当権者である原告に損害を及ぼすものと認めるのが相当であり、以上の認定を動かすに足りる証拠はない。

なお、被告は、原告は本件債権の担保として本件物件のほかに訴外佐藤武明所有の別紙物件目録記載三、四の不動産についても極度額二五〇〇万円の根抵当権の設定を受けており(このことは当事者間に争いがない。)右物件と本件物件とを合わせればその被担保債権極度額は本件債権額を上回るから、本件賃貸借の存在が原告に損害を及ぼすことはないと主張する。

しかし、共同担保権を有する債権者は、その共同担保のうちどの担保権をどういう順序で実行するかについての選択権を有するものであるから、民法三九五条但書にいう抵当権者に損害を及ぼすか否かの判定に当たっては、当該賃借権が設定されている抵当物件のみについて判定すべきであって、当該抵当物件以外の共同担保の目的となっている物件によって当該債権が満足を受け得るか否かにより右の判定を左右すべきものではないと解すべきである。

従って、これと異なる見解に立つ被告の前記主張は採用することができない。

三、以上のとおりであるから、被告らに対し本件賃貸借の解除を求め、被告加藤に対し、各賃借権設定仮登記の抹消登記手続を求める原告の請求はいずれも理由があるというべきである。

よって、原告の請求をいずれも正当として認容することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小川英明)

<以下省略>

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